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創作

ロボットが空から 深沢レナ

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ロボットが空から                  
               
深沢レナ
                      
        
     
ロボットが空から落ちてくる
そんな映画を撮影しましょうわたしたち三人で
ジャングルジムのてっぺんからわたしを見下ろして柔らかにそう言うのは
ハルの声 
そうね
はじまりはどこか遠くの星 
終わりかけている惑星
そこで捨てられてしまったかわいそうなロボットが
落ちてくるのこの街のこの公園に
落ちてくる過程で
重力にほどかれてしまったロボットのからだは
分解されてばらばらになって
部品そのひとつひとつが
舞い降りてくるの綿毛みたいにゆっくりと
ゆっくり
落ちてきたからだは
空色や
雲の色をした遊具にあたって 
そのあたった音が音楽を奏でて
それに合わせてわたしたちは踊る
そんな映画を撮りましょう
ハルはそう言って長い髪をふりほどいて
ハルのよこに座っているカゼがハルの透けるような髪をとかしている
わたしはそれを見て
なんてきれいな二人なんだろうと
なんて完成されているのだろうと
王女と王子みたいでわたしは王座を見上げるかのように
ブランコの上で
ただ頷く
彼女たちはカメラを通す前から完成しているから
わたしは何もしゃべらないほうがよいのだと
いつも思う
わたしが口に出すことは二人には 
この街には 
場違いな言葉ばかり
彼女たちにもそれがわかっている
話をするだけで話をききはしない
きれいに心地よくひびかせたらそのまま二人でどこかに吹いていってしまう

誰もいなくなった公園でわたしはひとり
ブランコをこぐ
きしむ
金具
わたしの出す音は汚い
ぎいこうぎいこう
くりかえし
くりかえす
今日もわたしは何も言えないまま
なんて
きれいな二人なんだろうと
なんて完成された二人なんだろうと
見上げていた
でも
つくりものでしかないじゃない
ハルもカゼもその言葉もこの街も
表面を
やさしくなでているだけだから
重さなんか持たずに
すぐ忘れる
同じ
言葉を同じ毎日を同じ芝居をくりかえして
ばかり
そうくりかえしてばかりじゃない愛しかもたないわたしたちは
つくりもの
だらけのパステルカラーに埋めつくされてしまったこの街で
この街は
雨のふることがないから人々は屋根をつくることもせずに
無防備に
心地よさに麻痺してしまって痛みを感じないまま
えんえんと
トランプを切り続けているかのように薄い日々を水増しし
そしていつか
使い終わってどこかになくしてしまった消しゴムみたいに
知られることのないまま
死んで消えてしまうだけの命を
祝福するように
すりへらして

ブランコをこぎながらわたしは地面を
蹴る
浮いて
上を
向いて思い切り身をそらし
このまま何もかもが逆さまになってしまえばいいのにと
空を見る
ぎいこうぎいこう
雲を見下ろして
ぎいこうぎいこう
見下ろしていると点
点?
黒い点
黒い小さな点が
点が
一つ
じゃない三つ、四つ、六つ、八つ、十、二十、
ちがう、もっと、五十、六十、いや、一〇〇、二〇〇、三〇〇
足りない、五〇〇、六〇〇、まだ、そう、一〇〇〇、莫大な、無数の、

点が
わたしたちの星に
わたしたちのこの街に
わたしの
この公園にやってきて
ロボットが
空からロボット
空からロボットが落ちてくる
落ちてくる
それは
無数のボルト
無数のナット
無数の
ネジ
無数の金属の破片それは突然と激しくふりそそぐ
ふりそそぐ
それは落ち
叩き
散らばり
叩きつける訴えかけるように
殴りつけて地面を
えぐりすべり台を
割り
シーソーを折り曲げ
板を打ち
破って
崩壊させる
ジャングルジムを
まだ
止まない点

点が
新たな点が次々とこの街に出現しては墜落し
生まれてくるかのように
死に続ける
ロボットが
ロボットが空から
ロボットが空から落ちてくる
ロボット
それはかつてロボットであったものたちの亡骸それは
かつてロボットであったはずの欠片たちが落ちながらかたちづくる集合体
集合体が鳴らす
その音は
その音は音楽なんかじゃ決してない、そう、叫びだ
叫び
それはロボットの叫びである嘆きである怒りである
それはわたしの叫びである嘆きである怒りである
雨のようにふる点
雨のようにふるロボットそれを
わたしは懐かしいと思う
その感覚を懐かしいと思う
待ち望んでいた柔らかなこの街を打ち破る存在を
強くもっと強く
叩け
わたしに冷たく硬く重く
わたしは硬く雨を落とす
かつてロボットであったはずのきみ
かつてロボットであったかもしれないわたしのからだを
打ち破って
そう
わたしの顔を思い切り内から破裂させろ雨
食い破るきみの顔をわたしの顔を確実に
染み込ませてわたしがここに立っていることを
証明して
消えることなくわたしは笑い
消えることなくわたしは息絶え
確実に血を残すからそれを
着実にひろいあげて吸い込んで
雨が
新たな雨を呼んで
水色ではなく錆色に染まりきった雨をここに
落ちるまでに吸い込んできた血の匂いをたぎらせて雨が
眠りきったこの街に
現実を投下する

ロボットが空から落ちてくる
それは
映画のスクリーンの中だけで起こること
けれどそれは
わたしの中で起こることかもしれず
いつかあなたの中でも起こりうること
今日も
人々は中に入っては出
目覚めては眠ることを相変わらずくりかえす
そしてまた夢からさめて
まださめてはいなかったのだと
眠りにもどり
でも夜はじっと身を潜めてあなたのすぐ近くに
生きている
王女と王子には聞こえないようにひそかに
どこか遠くの星で
捨てられたものたちが宇宙を落下しだし
この街のどこか忘れられたはずの裏路地で
誰かの影が
そっとはじまりをつげる

ロボットが
空から

おしらせ

新刊情報 「プラトンとプランクトン5号(最終号)特集 親密さのかたち」

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文芸同人「プラトンとプランクトン」、このまえの文学フリマで最終号となりましたが、通販で発売中です!

今後はHP中心の活動になります。手に取れるかたちでのぷらぷらは今号でおしまいになるので、ぷらぷらを読みたい人も読みたくない人も、まあ、最後だとおもって、ぜひぜひお買い求めくださいね!

5号のテーマは、「親密さのかたち」。
2年前、たった二人で立ち上げたぷらぷらが、いろんな人を集め築いてきた親密さの集大成です。

174ページ
価格800円

(通販リンクはこちら→https://renazawa.booth.pm

 

 

【5号 内容紹介】

  • 小説・詩・批評
    水原涼・伊口すみえ・なめこ・宮崎智之・深沢レナの通常メンバーに、
    セクシーかつ鋭い批評を書かせれば右に出る者はいないしだゆい & エンタメ作家として大活躍中の雛倉さりえ、の新メンバーを加えた幅広い批評と創作がいっぱい。
  • ぷらぷら座談会「親密さのかたち」
    「あなたにとって最も親密な対象とはなんですか?」という質問からはじめて、「親密さのかたち」について、立場も所属も異なるぷらぷらメンバーが徹底的に話し合った座談会。
    葛藤がなければ親密じゃない? 身体ってひつよう? 元カノや元妻は親密? エスとBLって? いつからわたしたちは日常会話で政治について話しづらくなったんだろう?『月に吠えらんねえ』にみる文芸同人のあり方の変化、などなど、盛りだくさん。
  • 特別企画 離婚者のつどい with 桃山商事
    特別企画には、離婚経験者の深沢が、離婚仲間でありいまをときめくフリーライターの宮崎智之さんと、恋愛相談ユニット桃山商事の清田代表をお呼びし、結婚・離婚にまつわるありとあらゆる疑問についてぶつけたロング鼎談。
    なぜ人は離婚するのか? そもそもどうして結婚しなきゃいけないのか? 結婚という圧は必要なのか? 夫はATMなのか? なぜ『逃げ恥は流行ったのか? 思想の対立は避けられなのか? そして恋愛相談のプロ、清田代表にきく「聴く」男の秘訣とは?
    最後には、さまざまな家族のあり方を提示する文学を検証。
    とてもとても濃い、ぷらぷらならではの結婚考です。
  • 親密さブックス
    ぷらぷらメンバーみなが親密さを考える上でのマイフェイバリットブックを選びぬいたブックリスト! 役立つ!
  • ぷらぷら読書会
    ぷらぷら恒例、ちょっと笑えて、でもとことん真剣な読書会。今回の課題図書は、エトガル・ケレット、マルグリット・ユルスナール、ブライアン・エヴンソン、松田青子の精読! 批評のための文学とは? 文学におけるユーモア、など、深い問題についてディスカっしょってます。
  • タロット占い
    もちろん、ルナティック・サヤによるはちゃめちゃな占いもついてきます。

 

そしてそして今回はぷらぷら専属編集者として竹田純氏が大活躍し、かわいいかわいい編集スタッフ渡邊優太・松山綾花を新たに迎え、インデザインの神様こと福田正知氏が本気を出しました、デザイン面。ゆるいけどかっこよく、かわいくてクールです。

どうぞお楽しみに!

 

 

 

 

ぷらぷらとは?

*ゆるくてえぐい文芸同人誌「ぷらぷら」*

「プラトンとプランクトン」は、創作・批評を中心に扱いながら、文学に囚われずさまざまな企画を行う同人です。作家、詩人、大学院生、編集者、漫画研究者、占い師、フリーライター、クリエイターなど多種多様なメンバーから成る「プラトンとプランクトン」、略して「ぷらぷら」。この誌名は、「我々など偉大な先人に比べたらプランクトンのような小さな存在にすぎない」という限りなく否定的な思いに由来しますが、そんなプランクトンが大いなるプラトンに近づくべく、毎月〈ぷらぷら読書会〉や〈小説技術ゼミ〉といった勉強会を開催して、創作の技術を学んでいます。

*ぷらぷら企画*

ふだん文芸にあまり携わらない人でも楽しめるような文芸誌をつくるため、毎号ごとにテーマを立て、文学からは程遠いと思われるような企画も行っています。1号では墓場に写生文を書きにいき、2号では保護猫カフェにいって猫描写バトルを繰り広げ、4号では相席居酒屋でスケッチ文を書いてきました。

バックナンバー情報はこちら↓


ぷらぷら1号〜4号紹介

おしらせ

新刊情報 深沢レナ第一詩集『痛くないかもしれません。』(七月堂)刊行

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深沢レナ 第一詩集『痛くないかもしれません。』(七月堂)を9月に刊行いたしました。いえーい。略して『痛かも』。

 

 

詩をかきはじめた頃から1、2年間の、ほんとに初期の頃の作品をまとめました。一応「詩」とはいっていますが物語ありきの、詩なのか小説なのかあやふやな作品集になっています。「えぇ…現代詩ぃ…?」と気張らず、毎日の夕飯のお供にでもパスタの茹で時間にでも、気軽に楽しんでいただけたら嬉しいことこの上ないです。

装丁は『プラトンとプランクトン』でもタッグを組んでいる福田正知くん。
表紙の装丁はもちろん、紙質からフォントの幅までこだわり、ときに挑戦的なデザインは必見! え、うそ、そんなとこはみ出ちゃっていいの!? 的なドキドキ感まで楽しめます。

帯文を佐々木敦さん、伊藤比呂美さん、栞文を堀江敏幸さんに書いていただいています。虎の威というかもはやドラゴンの威まで借りちゃって火吹きまくっている感じですが、三者三様の素敵な文章の真ん中にちゃっかり立ってるお前、お前はそもそも誰やねん、と少しでも気になったら、ぜひお手にとっていただき、そして買う気が失せてしまわないうちに、なるべく早くレジカウンターまで持ってってください。どうぞよろしく!

 

 

〜帯より〜

通称レナ沢さんとは、教え子というより先輩後輩のような関係(もちろん向こうが先輩)なのだが、その一見野蛮とさえ思える放埓な態度の裏側に、華奢で可憐な、おそろしく傷つきやすい少女が隠れていることに、私はうすうす感づいていた。

本書を読んで、自分の勘は正しかったことが、よくわかった。

——佐々木敦

 

強くて弱い、弱くて強い。

レナがなぐりかかってくるから

読みながらなぐりかえしてやるのだ。

それなのにまた立ち上がってなぐりかかってくる。

弱いのに強い、強くて堅いそのこぶしが

そのこぶしが、痛くてたまらない。

——伊藤比呂美

 

れなざわレナ沢深沢レナはその傷つきやすい横腹の皮膚をみずからまとって、複数の自分を強烈な陽射しと鋭い爪を持つ海鳥たちにさらしていた。待った甲斐はあった。私はテーブル越しに、名前は呼ばないで、おずおずと旧仮名遣いの進言を試みた。どうでせう、まだ痛みはあるかもしれませんが、そろそろ観測用の係留気球をいくつか選んで圏外へ飛ばしてみては? 彼女は少しも表情を変えずに、痛くないかもしれません、とまっすぐに答えた。

——堀江敏幸(栞「係留気球を切り離す」より)

 

 

 

【取り扱い店】

・七月堂さんの店頭および公式通販
http://www.shichigatsudo.co.jp

・深沢レナ直売り通販
https://renazawa.booth.pm

・うさぎ洋品店&古書店さん
http://usagiyouhinten.ocnk.net

その他、amazon、池袋ジュンク堂、新宿紀伊国屋、吉祥寺百年、などなどいろんな店舗においてあります!